五感をフルに使ってメッセージを感じとる~放たれている小さなメッセージを見逃さないために~

宇宙のようにも感じられる発酵の世界の奥深さ

前回「見えるのに見ていないモノ、世界」というのを書きました(「見えるモノでも見えていない~そこに確かにある存在~」参照)。
漬物作りにおいては、この感覚というのが非常に重要になってきます。

漬物は、物にもよりますが「発酵食品」と呼ばれるように、菌による発酵を利用した食品です。このメカニズムは未だに完全には解明されておらず、非常に複雑で、宇宙のようにも感じます。

さて、この漬物の発酵ですが、菌の作用によって野菜が分解され旨みが発生し、漬物として美味しく出来上がるわけです。

しかし菌、というのは肉眼ではまったく見る事が出来ません。(菌、と一言で書きましたが、発酵にはそのほか、カビや微生物なんかが非常に多く関わってきますが、前に書いた通り、メカニズムが非常に複雑なので、ここでは菌とだけ書きます。)

例えば糠(ぬか)漬けなどは、野菜を糠に漬けておくだけで、その発酵作用により、数日たてば美味しい漬物になります。

調理としては非常に簡単で、ほとんど「野菜を糠に放り込むだけ」となります。
しかし、この糠漬けは糠床作りとその状態の維持が非常に難しく、ちょっとでも管理を怠ればカビだらけになったり、変な匂いがしたり、とても美味しい漬物は食べられません。

糠床作りの達人が見ているものとは?

この糠床の状態を良い状態に保つために必要なのが、前回書いたような感覚です。ですが、菌は「見えるのに見えていない世界」ではなく「見ようとしても見えない世界」です。人間の能力異常のモノは決して見えませんので、見えないモノを見ようとしても決して「見えません」。

そんなモノは肉眼で見ようと努力しても一生見えません、見ているウチに自分の妄想や想像、過去に見た菌の顕微鏡映像なんかが入ってきて、自分が作りだした幻を見る事になってきたり、最終的におかしな事になったりするかもしれません。決して菌そのものを肉眼で見ようとしないで下さい(笑)

糠床作りの達人ともなると、まず見た目、匂いぐらいで糠床の状態がおよそわかって、塩を足すか、糠を足すか、ビールを入れるか、等々対処方法が大体わかります。

経験者の方はわかると思いますが、見ただけでは素人には何をどうして良いのかさっぱりわかりません。(僕もわかりません。)

では、達人は一体何を見ているのでしょうか?
達人であっても前に書いたように、菌の姿は見えません。
科学が発達した現代では、この菌をこれだけ入れたらこういう味になる、など、およそ検討がついてきていますが、もちろん糠床達人がそんな最先端の機器を使っているわけもないです。(そういう意味では人間の職人の感覚というのは原初の頃より現代科学の遥か先をいっているわけですが。)

達人は、菌そのモノを見ようしているわけではなく、前回書いたような感覚で五感を鋭く使って、いわば糠床のメッセージを感じているんです。それは誰しもが持っている感覚とはいえ、鋭く使わないと捉えられない小さなメッセージです。

達人が糠床を見るとき、端から見ると糠床を「見ている」ように見えますが、達人は糠床の全てを五感を鋭く使って感じているだけです。

そうすると、糠床の状態が自分に映ってくるので、後は自分の事のように対処するだけです。文章で書くと大変簡単ですけど、実際は達人と糠床間で膨大な情報のやり取りがあります。それはもう、物凄い情報量で、現代のネットの通信速度が、とか、そんな次元を遥かに超えています。それを人間は一瞬のウチに感じるとることが出来るので、人間の能力というのはそういう意味でとんでもないものだと思います。

感覚の使い方というのは普段から鋭く持って、放たれている小さなメッセージをしっかり捉えて、この世界を隅々まで体験しておければ有意義に生きられるかもしれませんね。