国境なき医師団~台風30号の被害地域で医療・人道援助を提供~

より多くの人びとに医療・人道援助を提供

国境なき医師団(MSF)は現在、台風30号の被害を受けたフィリピンの3島5ヵ所に活動地域を拡大し、より多くの人びとに医療・人道援助を提供できるようになっている。活動地はサマール島ギワン、レイテ島タクロバン、オルモック、ブラウエン、パナイ島のロハス、エスタンシアと各周辺地域で、人道援助のニーズは各地域によって異なっている。

現在、現地で活動中の外国人スタッフは合計160人、うち日本人スタッフは看護師1人と外科医1人が活動している。

活動概況

・タクロバン市のような大都市には援助物資が届き始めているが、過疎地、交通の便の悪い地域、沿岸部などには依然として援助が届いていない。タクロバン市に近いサンタフェなどの町もそうした地域にあたる。MSFの優先課題は、これらの孤立地域に向かうことだ。

・インフラの損壊、空港や港湾の混雑、道路閉塞などによる輸送の制約は、依然として援助活動の障害となっている。

・MSFの物資は、空路と海路で被災地に運ばれ、治療できる患者数の増加につながっている。

・援助の届いていない沿岸部と都市圏外の地域では移動診療を展開している。

・いずれのMSFチームにも心理ケア担当スタッフが帯同、自然災害において避けられない心理的影響に苦しむ人びとのケアを開始している。

・機能している地元病院の支援も行い、妊産婦ケアや入院治療といった病院の通常機能の回復を後押ししている。

 

各島における活動詳細

<サマール島>

島東部のギワンでは複数のチームが被害を受けた地元病院を拠点に、早期の医療体制復旧に努めている。同病院は被災前、ギワンと周辺地域の中央病院として機能していた。MSFはベッド数15床の入院病棟、さらにテント式の分娩室、産科施設、医療器具の滅菌室を設置した。分娩介助、分娩合併症への対応や帝王切開を含む妊産婦ケアが優先事項となる。数日以内に病院建物の修復にも着手する予定。

ギワンの都市圏外にある医療施設でも診療や小規模手術を実施。さらに結核患者への対応や、破傷風に対し短期間の免疫を獲得できる予防接種も行っている。

遠隔の地域に総合診療を提供する移動診療を20日より開始予定。

18日に始まった心理ケア活動は、患者と地元の医療スタッフへのカウンセリングを皮切りに、現在では対象を地元住民に拡大している。

テントの配給にも着手し、20日には400世帯に届けられる予定。

合計200トンを超える援助物資がギワンに運び込まれ、さらに追加が見込まれている。

<レイテ島>

タクロバン市のMSFチームはボランティアと協力し、ベサニー病院敷地内のがれきを撤去。20日には、エアーテント病院の設置を始める予定。ベッド数は40床で、開業までに2日ほどかかる見込み。

タクロバン市東部のスラム地区では調査が終わり、速やかに移動診療を開始する。同市北西部でも新たに調査を行う予定。

パロに拠点を置くMSFチームが、人口5万5000人のタナウアン市で移動診療を開始、19日には150件の診療を提供した。タナウアンは台風で破壊され、5800世帯が現在も屋外の過酷な環境で過ごしている。11月第4週末までに、パロ、トロサ でも実施する予定。

MSFの医療チーム1班が18日、タクロバン市南西の町サンタフェで150件の診療を提供。サンタフェはほぼ壊滅状態で、町の機能が停止している。7日間にわたり治療が受けられず、外傷が感染症を起こしている患者が多かった。そのほか、下痢や気管支感染症の患者も大勢いた。心理ケア提供のため、心理療法士1名も帯同している。

オルモック市内の各避難所で移動診療を継続中。また、MSFの給排水・衛生作業の専門家が、損壊した病院の給水システムの修復、避難所の清掃を行っている。さらに、地元病院の手術室の屋根の修復にも協力している。

島南部の援助ニーズの最も高い地域への物資輸送が依然として課題となっている。

ブラウエン市では、外科処置も可能なテント病院の設置を進めている。同市では中央病院が台風で大きく損壊し、家屋もほぼすべてが倒壊した。19日には合計150件の診療を行い、合計40床を備えたテント4張を設置。同日夜までに病床利用率は100%に達したが、患者の大半が台風に直接起因しない高血圧などの慢性疾患、呼吸器疾患、交通事故による負傷の治療で来院していた。19日には、トラック2台分の医療物資が船でブラウエン市に到着。追加物資も空路でセブ島から輸送中。後続の物資が到着し次第、ドゥラグやブラウエン周辺での移動診療を開始する。

<パナイ島>

複数のチームがエスタンシア、サン・ディオニシオ、カルレスの3地区で外来診療を提供。同地域は沿岸部で、主要な移動手段だったボートの多くが台風で破壊された。そのため、台風直撃以前から問題だった、病院に行くための交通がさらに不便になった。19日にMSFが各診療所で対応した症例の大半が深刻なものではなかったが、肺炎、水様性下痢、気管支感染症も見られた。また、疝痛など、心の傷に起因する身体症状の表れた患者もいた。

19日、パナイ島西のコロン島と、パラワン島で調査が行われた。MSFはまた、数日以内にパナイ島の東側の島々で移動診療を提供するためのボート確保に奔走している。同じく数日以内に1チームが、エスタンシア近郊のバラサン病院(ベッド数21床)も支援する予定。

医薬品、医療機器、必須物資を含む2000組の援助キット合計30トンが首都マニラからロハス市に向かっており、イロイロ州北東部で活動する複数のMSFチームに届けられる。さらに1000組のキットが寄贈され、カナダからフィリピンに発送済み。首都マニラでも、修復用建材などをまとめた4000組のキットが新たに準備されている。