女ひとり旅、それも220km徒歩で聖地「熊野古道」を目指す!「歩く旅の本 伊勢→熊野」 PART.2

今年、式年遷宮が行われる「伊勢神宮」から
世界遺産「熊野古道」を、女子、ひとり行く!

スペイン・サンティアゴ巡礼路1,000km踏破で、「歩く旅」の魅力に気づいた著者が、伊勢神宮~熊野本宮大社まで、世界遺産・熊野古道、「伊勢路」220kmの道のりを歩き抜いた、使える旅エッセイ! 灼熱の太陽のもと、執拗なアブ軍団に追い回されたり、さびれた峠にビクビクしたり、地元の人に「失恋したのか?」とからかわれたり…。笑いあり、涙あり、人情ありの珍道中。その先に見えた景色とは?

なぜ人は聖地・熊野を目指すのか? 歩いたことで出逢えたものとはなんだったのか? 独特の笑いと涙をさそう文体に、思わずひきつけられてしまう傑作! 抱腹絶倒、涙、涙の最高級旅エッセイ!
今回は本書のご紹介第2弾です!

熊野古道とは?

熊野古道(くまのこどう)は、熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)へと通じる参詣道の総称。紀伊半島に位置し、道は三重県、奈良県、和歌山県、大阪府にまたがる。
熊野古道とは、主に以下の5つの道を指す。
① 紀伊路(渡辺津-田辺)
② 小辺路(高野山~熊野三山、約70km)
③ 中辺路(田辺~熊野三山)
④ 大辺路(田辺-串本-熊野三山、約120km)
⑤ 伊勢路(伊勢神宮-~熊野三山、約220km)

スペインの「カミーノ」、熊野の「クマーノ」

ということで私は、友人に紹介された修験者の方に電話してみることにした。ちなみに友人からは、「古い友だちで、熊野に移住し、30年近く修験者として修行をしている、変わった修験者」という事前情報しかもらっていなかった。
さすがにそれだけではちょっと心配だったので、iphoneで検索したら、もの凄い目力のある(要するにちょっと怖い)修験者の写真が出てきた。

私は一旦ケータイを置き、「私はAさんにご紹介いただきました、フクモトと申します。8月中旬より伊勢神宮を出発し、熊野古道伊勢路を歩いております」と、何度か予行演習をした。お茶を一口すすり、気持ちを落ち着かせ、ドキドキしつつダイアルを押すと、すぐに「はい」と野太い声の男の人が出た。
ショエー! やっぱり怖い。緊張しつつさっき練習した挨拶をした。すると、「おー! おぉ、おぉ!! 聞いてるよぉ~! Aちゃんの友達だろ~!? なんか熊野古道歩いてるっつー! で? で? 今どこにいんの? どこ歩いてんだよ!?」と、ものすごくフランクかつ、異常にテンションが高い(汗)。

勢いに押されつつ「今日は二木島という港町にいます。明日木本、熊野市駅まで歩く予定です」と答えると、「じゃあもう近くまできてんじゃんよー! オッケーオッケー!! うちは新宮と本宮の間なんだよ。新宮からも歩くんだろ? そんとき泊まってけよ! Aちゃんから泊めてやってくれって言われてんだよー!何人くるんだ? 一人か?」と修験者さん。単に訪ねるだけのつもりだった私は急な展開に驚きつつ「え、えーと、いまは私一人ですが、新宮でもう一人女性が合流するので女性二名になります」と伝えた。すると、「オッケー! 二人な! で、ビール飲む? 酒は何が好き?」と訊いてくるではないか。に、人数確認
の次がビール飲むかって……。驚いて黙っていると、「いやほら、この辺なんもないからさ、飲むんだったら用意しないといけないだろ? だからそういうのは遠慮しないで正直に言ってもらった方がこっちも助かるんだよ~! で、飲むのか?」と修験者さん。そ、そういうことなら……。「ビ、ビールをお願いします。ちなみにもう一人、新宮で合流する女の子も、お酒をたくさん飲みます」と私。

「おうよ! 了解! イイネェー! 楽しみになって来た! そういえば、フクモトさんたちが来る日あたりによぉ、なんかスペイン人の世界的ロッククライマーが来るらしいぜ。もし一緒になったらスペインの巡礼路の話で盛り上がるんじゃねーの? 楽しそうじゃん! そうそう、こないだもフランス人が来たぜ。スペインのカミーノ歩いたあとは日本の『クマーノ』だっつってな! ハッハッハ。まぁいいや。じゃ、また新宮を出発するとき連絡してねー! じゃーねー!」ガチャ。ツーッ・ツーッ・ツーッ……。

電話を切った後(切られた後?)手元のメモにはなぜか、「ビール、クマーノ」という謎のメモだけが残っていた。きっと緊張とすごいテンションのギャップで無意識にキーワードをメモしてしまったんだろう。にしても「ビール」と「クマーノ」って、一体どんなキーワードなんだか。

予定外の滝行はやっぱり修行……

布団をたたみ荷造りをして下りていくと、「おぅ! 起きたか! じゃ、いくぞ!」と言って、和尚から白装束を手渡された。ってえぇ!? 実は昨晩飲んでいるとき、なぜか滝行の話になり、酔っぱらっていた私と編マキちゃんは「滝行体験できるなら、ぜひやりたい!」と言ってしまったのだ。とはいえ内心、「でも明日は小口から小雲取越えをして本宮大社まで歩かないといけないから、”残念ながら”滝行をする時間はないだろうけど」と思っていた。実際、和尚も「でもお前ら明日本宮まで歩くんだろ? 行場までは片道40分かかるから往復すると……うーん、ちょっと時間的に厳しいかもなぁ。またの機会だな」などと言っていた。だから今日は滝行はしないと思っていたのに。

私は手渡された白装束に戸惑った。今日は本宮まで歩くのに本当に大丈夫なのだろうか。念のため確認すると和尚は、「昼に出ても十分夕方には本宮に着けるぞ!」と昨日とはまったく違うことを言う。それどころか二日酔いのはずの編マキちゃんはすでに白装束を手に、ニコニコしているではないか。まあよい。そういうことなら、貴重な機会だ。人生初の滝行をさせて頂こう。

「すぐだからな」と言う和尚について、私たちは出発した。
「しまった! この人の言う『すぐ着く』とか『10分で着く』は信じちゃいけないんだった! 修験者の足と一般人の足は違うんだった!」。そう思い出したときには時すでに遅し。和尚は「すぐだからな」なんて、まるで近所のコンビニに行くかのように言ったけど、滝行どころか、行場に行くまでがすでに修行。岩を登り、川を越え、倒木をまたぎズンズン進んでいく。「いままで私が歩いてきた『熊野古道』は舗装された歩きやすい街道だったのね」と思うほど、半端ない山道。いや、山道というか獣道? というかこれは道なのか? スタスタ歩く和尚に必死でついて行きながら「道なき道を行く感じですね」と言うと和尚は「道だもんね~。オレ20年通ってるもんねー」とのこと。(しかし帰り道で「あれ? オレここ通ったっけ? 道間違えちゃったかも」と言っていたことを私は聞き逃さなかった)。
とにかく、そんな「道なき道」を40分くらい歩き続け、私たちはやっと行場にたどり着いた。

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女性一人が熊野を歩く。一筋縄では行かない経験を乗り越え、福元さんが手に入れたものとは?ぜひ本誌でご確認ください!

★PART.1はコチラ


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福元ひろこ ( ふくもと・ひろこ)
文筆家。東京都出身。早稲田大学卒業後、セツ・モードセミナー卒業。会社員を経て、2003 年、有限会社3Way 設立。スペインのサンティアゴ巡礼路約1,000 km を歩いた体験から、歩く旅が持つ可能性に関心を持ち始める。「歩く旅をする人が増えると平和な世界に近づく」を信念に、世界中の道を歩くことをライフワークとしている。現在は、特に日本の道を国内外に発信し、世界中の人々が平和に交流できる場とすることを目指している。
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「歩く旅の本 伊勢→熊野」
著者:福元ひろこ
価格:1,890円(税込)
出版:東洋出版