神仏絵師のよろづ話:第十六話「三界を制した者を倒す・降三世明王様」

降三世(ごうざんぜ)明王様

こんにちわ。神仏絵師の昌克です。今回は、ちょっとマイナーな明王様。降三世(ごうざんぜ)明王様を紹介しましょう。この明王様は、みなさんもよくご存知の「不動明王様」を筆頭にした「五大明王」の中のお一人です。「知ってる~」という方は、けっこうなマニアでしょう。もちろん明王様と言うだけあって、お顔は憤怒の相をされています。更に怖い事に、その怒った顔を3つも持ち、手は八本で、それぞれに武器を持つと言う、怒る気満々の明王様です。その特徴の最たるものは、胸元で結ばれた印です。これは「降三世印」といい、小指を絡ませ、胸の前で交差。人差し指だけを立てる。この印は、降三世明王様しか結ばないと言われています。そして、もう一つが、踏みつけている二人。他の仏像は、邪鬼などを踏みつけている場合が多いのですが、これはなんと「シヴァ神」とその妻「パールヴァティー」なのです。

 

タイトルにもあるように、降三世(ごうざんぜ)の「三世」とは、現在・過去・未来の世界を指します。法話によると、ヒンドゥー教の皆様には、申し訳ないのですが、ヒンドゥーの最高神シヴァ神を仏教徒に改宗させるために派遣され、その結果、シヴァ神とその妻であるパールヴァティーを降伏させたのです。ヒンドゥー教において、シヴァ神は、現在・過去・未来を制していると言われていたため、そのシヴァが神を降参させたとして、降三世明王という名になったのです。じゃあ倒す前の名前は、なんだったんでしょうね。笑

ただ、私の描く、降三世明王様の足元には、この二人の姿はありません。

宗教を広めるという行為は、ある意味で「争い」でした。旧来の宗教を否定し、自分たちの持ってきた宗教を信仰させ、支配する。そして、それに抗うことで、争いが起こってきました。争いとは、双方が正義を掲げるから起こるのです。「正義 対 悪」なんてケースは、ないのです。すべてが「正義 対 正義」なのです。そういう中で生まれた法話は、仏教からの教えでなく、仏教を広めるために作られたケースも少なくありません。そういう意味で、私はどうしても異教の神を踏みつける姿が、この明王様の姿とは思えなかったのです。

 

さて、降三世明王様の「三世」の由来には、もうひとつあります。仏教では「三毒」と言うものがあって、煩悩の根本原因とされています。その三つとは「貪・瞋・癡(とん・じん・ち)を指しています。

まず「貪(とん)」とは、貪欲の貪。必要以上に、欲しがる貧しい心。
次に「瞋(じん)」とは、瞋恚(しんに)。怒りや、憎しみの心。
最後が「癡(ち)」で、愚癡の癡。愚かな心。心理に背を向ける疑いの心。

この三つの悪を打ち払うのが、降三世明王様なのです。誰だって怒られるのは嫌です。でも、叱られないと気付かないこともあるのです。それが人の弱さであります。その弱さをも認め、導くのが明王様たちのお顔や、お姿なのです。
私は、こっちの話の方が好きです。

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