神仏絵師のよろづ話:第十三話「七観音・羂索にて人を救う不空羂索観音様」

不空羂索観音様

こんにちは。神仏絵師の昌克です。今回も、七観音の中から観音様をご紹介します。お名前は、不空羂索観音様。読み方は「ふくうけんさく」もしくは「ふくうけんじゃく」と読みます。

まず名前にある「不空」は、「空でない」と言う意味で、あまねく、すべてと捉えていいようです。続いて「羂索」ですが、これは、長いヒモの両端にそれぞれ、輪っかと剣(独鈷杵)の先がついています。これは本来、鳥や獣を捕る狩猟道具と言われているのですが、そのような道具をなぜ、この観音様が持っているのでしょう……。今回は、この秘密が重要なようです。

 

では、他にこの羂索を持ってるのは、どんな方でしょう。代表的なのは、不動明王様です。そして、他の明王様も持っておられますが、いずれにしてもこの羂索の使い道は「魔を縛りつける」ものとして認識されているようです。まさに狩猟道具としての使い方ですよね。

では、なぜこのような道具を不空羂索観音様が、救済のために使うのでしょうか? そこで一度、「羂索」の文字を分解してみましょう。すると「羂」は「罠」と言う意味でもありました。「策」には「仕掛け」という意味もあります。こうすると別の「羂索」のイメージが浮かんできます。でも、罠にしろ仕掛けにしろ、あまりいいイメージではないですね。でも、そこから浮かぶ姿は……。

「罠にまでかけて、人を救済する?」

答えは「Yes」なのです。そして、ここが面白いところなのです。基本的に宗教とは、その教えを信じる「信者」がいます。そして、信者は、その宗教から様々なことを学びます。「生きる喜び」「死生観」「道徳」などなど……。しかし、その前提は、その教えを信じてるからこそ、そこから学ぶことができるのです。そして、宗教はそういう信者の存在の上に成り立っているのです。

なんとも強引な言い方ですが、この観音様には、信者であるかどうかは関係ありません。誰であろうと救済することが目的なのです。そのためには、罠にかけようともかまわないのです。

とても乱暴な言い方をしましたが、ちょっと考えてみてください。川から魚をすくいあげる時、何がもっとも効率的でしょうか? 実は「羂」の指す「罠」の意味は広く「網」も含まれています。一網打尽という言葉もあるように、多くの魚をすくうことを説明するには、網のような道具がある方が、効率的であり、わかりやすかったのではないでしょうか。
そして、だからこそ「羂索」に「不空」の文字がついているのだと気付きました。不空羂索観音様は、大きな慈愛をもって「どこの誰であろうと、あまねく、すべての人を救済する」ことを宣言した観音様なのです。

 

信じてくれたら……わかってくれたら……お金があったら……愛してくれたら……。我々は、ついつい行動の動機に条件をつけてしまいます。それは、行動を起こせない自分への言い訳になっていませんか? 不空羂索観音様の行動力じゃなくてもいいけど、自ら一歩を踏み出すことを心がけてみませんか?

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