「すべての人に自由を」政治家として、ひとりの人間としての信念を貫いたリーダー『リンカーン』

「すべての人に自由を」政治家として、ひとりの人間としての信念を貫いたリーダー『リンカーン』

エイブラハム・リンカーンの生涯

第85回アカデミー賞ではダニエル・デイ=ルイスが主演男優賞した、アメリカ映画の巨匠スピルバーグが12年に渡って温め続け、アメリカを代表するリーダーとして名を残すリンカーンの真実の姿に迫るドキュメンタリータッチの傑作。スピルバーグはこの映画についてこう語る。「リンカーンの映画をずっと撮りたかった。自分の理想を貫き実現するアメリカの父とも言える指導者だ。この作品は偉大な指導者が求められる現代を映し出す作品だ」。

1865年1月、エイブラハム・リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)が大統領に再選されて、2カ月、国を二分した南北戦争は4年目に入り、大勢は大統領が率いる北軍に傾いていたが、リンカーンにはすぐさま戦争を終結させるつもりはなかった。奴隷制度に永遠の別れを告げるため、たとえ多くの死者が出ても合衆国憲法修正第十三条を下院議会で批准する前に戦争を止めるわけにいかなかった。

リンカーンの妻のメアリー・トッド(サリー・フィールズ)は南部出身で、夫とは口論が絶えず必ずしも、良好な関係とはいえなかったが、心の底で夫を信じていた。

リンカーンは国務長官ウィリアム・スワード(デヴィッド・ストラザーン)を介して、議会工作を進めるべく指示する。同じ共和党の保守派プレストン・ブレア(ハル・ホルブルック)を使って党の票をまとめても、成立させるためには20票、足りなかった。リンカーンはあらゆる策を弄するように命じ、スワードはW.N.ビルボ(ジェームズ・スペイダー)をはじめとするロビイストを駆使して、敵対する民主党議員の切り崩しにかかる。

その動きを冷ややかににみつめていたのは、奴隷解放急進派のタデウス・スティーブンス(トミー・リー・ジョーンズ)だった。彼はリンカーンがどこかで妥協するのではないかと考えていた。

リンカーンにとってホッとできるのは末息子のタッドと過ごすひと時だけだった。長男のロバート(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)とは話す時間もなくぎくしゃくしていたが、ロバートは正義感で母の強硬な反対を押し切って、北軍に入隊してしまった。リンカーンは無事な学生でいてほしいという父としての願いを抑え、ただ見守るしかなかった。

南北戦争の和平交渉が早く進む事態となって、リンカーンは1月25日、下院議会に合衆国憲法修正第十三条に提出する。思惑と工作が蠢くなか、果たして多数派工作は成功したのか。ひとり静かにホワイトハウスで結果を待つリンカーンだったが、その後に過酷な運命が待ち受けているとは予想もしていなかった―。

リンカーンが信念とした「すべての人に自由を」

貧しい家に産まれ、殆ど学校にも通えないという少年時代を送りながら、努力と独学で身を立て、ついに16代合衆国大統領となったリンカーン。権力の座に安住するのではなく、奴隷解放運動を推進する一方で、その運動が引き起こした南北戦争で国が割れるという未曾有の危機に立ち向かったこの立志伝中の人物は、世界中で政治不信が叫ばれ、自らの利益のみに汲々とする現代者社会で“今もっとも求められているリーダー”の象徴というべき人物。

すべての人が自由であるための道を拓くために、悲惨な南北戦争という内戦をどのような形にし、集結させるか――若者を死地に送る痛みに苛まれながらも人間の自由を確立しなければならない。心のなかで葛藤を繰り返しながら、ふたつの命題を実現するために、リンカーンは知恵と勇気、不屈の闘志を駆使する。

理想を貫くためには、さまざまな策も厭わない現実主義的な一面、これまであまり伝えられなかった妻や子との葛藤……。自分の息子が戦地に行くと行った時、リンカーンは何を考えたか。そして妻は? 政治家としてではなく、父親として、夫としてのリンカーンの姿も垣間見える。
自らの信念にしたがって、孤立や誤解を恐れずに戦い抜いたリンカーンの姿は、ひとりの人間としていかに生き方を見せつけられる作品だ。

「リンカーン」
4月19日(金) TOHO シネマズ日劇他全国ロードショー
http://www.foxmovies.jp/lincoln-movie/配給:20世紀フォックス映画

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