一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.6 無垢な魂ゆえに愛されるフラメンコダンサー

『長嶺ヤス子 裸足のフラメンコ』

20年以上前、長嶺ヤス子さんを撮った映画があった。その後、すっかり彼女のことを忘れていたが、去年書籍が出ているのを見て、「ああ、まだお元気なんだ」と懐かしい思いがした。そうしたら、ドキュメンタリー映画の公開である。映画の中の彼女は20年以上前とほとんど変わってないような気がした。77歳という。私自身も歳月を重ねて、映画の中の彼女に再会して、心打たれるものがあった。

2011年に直腸ガンの手術をし、1ヶ月後にはステージに復帰。激しく踊り狂う。舞台のない日は油絵を描き、近所の年老いた犬の世話を献身的にする。そして福島県に借りた家には拾ってきた何十匹もの犬や猫がいて、世話人をやとって飼育している。そんな彼女のインタピューを挟み、生活を追いながら、カメラは長嶺ヤス子の「老い」や「孤独」も同時にあぶり出す。

練習の途中で居眠りしてしまったり、スペイン人のダンサーたちに置いてきぼりをくらってゴミ袋を下げて一人帰る姿など、なんとも言えない悲しいような淋しいような気持ちにさせられる。でも、それが生きていくってことだよ……と私はちょっと冷静で、大人になったなあ、とちょっと自分に驚いた。また、そういうところを撮った監督の冷徹な目も素晴らしいと思う。

彼女のインタビューも面白い。たとえば「私テレビも新聞も見ないから震災のことも全然知らなかったの。でも、震災前も気の毒な人はたくさんいたのに、みんな知らんふりだったでしょ。震災で大騒ぎになったからみんないろいろ(支援を)やってるけどね」とか、「日本人のフラメンコダンサーって気持ち悪くて見れないの私。日本人はフラメンコやらない方がいいわね。って私もそう思われてんだろうけど(笑)」。歯に衣着せぬものいいは爽快でユーモアに満ちている。つらつらつら~と喋る様は草間弥生のようである。そして、彼女の描く油絵は鴨居洋子の絵に似ている。三人に共通するのは「無垢」と「少女」か。

動物たちに施した「徳」が彼女を生き長らえさせる

私がこの映画で一番印象に残ったのが、福島の家で保護している前足が2本とも折れ曲がった犬に接する彼女の様子だ。その犬は足を折られたまま捨てられていたそうで、彼女が「この子はね……」と抱きかかえると犬は失禁し、彼女は「あらら……」と拭くのだが、気にせず尿の上に座って話を続ける。この無頓着さ、大らかさ、そして犬への愛。私はこういう人って本当に尊敬する。かなわないって思う。こうなりたいと思う。

 

スピリチュアル的にこの映画はいろいろなことを教えてくれる。長嶺さんがガンの手術が成功し、元気に踊っていられるのは、動物たちが守ってくれているからだと思う。また、100匹以上の動物たちを保護している、その「徳」が彼女を生き長らえさせているのだろう。飼い猫や犬が体の不調を教えてくれたり、身代わりになってくれたりすることは少なくないのだが、彼女の場合も動物たちが恩返しをしているのだ。無私の介護を続ける老犬ハチと長嶺さんは魂の会話をしているようだった。魂同士で触れ合っているのだ。

ハチと赤ん坊の絵で映画は終わる。確実に元気をもらえる一作である。

『長嶺ヤス子 裸足のフラメンコ』(2013年)
3月23日(土)より東京新宿・K’s cinemaにて公開、4月下旬以降、大阪・第七藝術劇場にて公開予定、ほか全国順次公開
監督:大宮浩一、出演:長嶺ヤス子他
(c)大宮映像製作所公式HP http://www.hadashinoflamenco.com/

 

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