一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.1~震災により旅立った魂たち。その命に、感謝をささげる。『遺体 明日への十日間』

「遺体 明日への十日間」(2013年 日本映画)

観て良かった、と思えた。震災関連の映画はドキュメンタリーも含め、いくつか作られているが、劇映画では初めてそう思えたような気がする。

映画の主な舞台はほぼ一箇所。2011年3月11日からの十日間の岩手県釜石市の遺体安置所。そこでひとりの初老の男が、次々と運び込まれる遺体とその家族の世話をする。元葬祭関連の仕事をしていたという男の遺体への接し方は丁寧で愛情に溢れ親身だ。男の態度に次第にそこで働く人々や家族の荒んだ心は救われていく……。

遺体安置所という場所には様々なドラマがある。子供を亡くして片時も子供の遺体から離れられない母親。死後硬直した遺体の体を乱暴に扱う職員たち。アパートが流され、友人も行方不明で放心状態の若い市の職員……。しかしカメラは終始冷静で、過剰に涙を煽ることなく、淡々と彼らの変化を描いていく。だからこちらも泣くことなく静かに観ていられる。そして、何人かの話に絞っているので、もっと悲惨なことがいっぱいあったろう、遺体の数もこんなものじゃないだろう、人はほんとうに絶望したら泣けないんじゃないのか? もっと元気な家族もいるだろう、と意地悪な突っ込みさえできた。そう、中盤すぎまでは。

 

中盤をかなり過ぎたあたりで、会社社長が運ばれてくる。遺体の検歯をする歯科助手の知り合いで、検歯中の彼女に社長が運ばれて来た事が告げられる。そのことを聞いて社長の遺体に対面するまでの、彼女を演じる酒井若菜の演技が素晴らしかった。
リアル。
私も世話になった人の遺体に対面することになったらたぶん、酒井若菜と同じ表情、顔、しぐさをすると思った。ここで涙腺が切れた。彼女の演技で涙がほとばしった人は私だけじゃないようで、ここでガサガサとティッシュを取り出す音や湿った吐息が聞こえた。
それからは、我慢しないでそのまま泣こう、と泣けるままにしておいた。意地悪な突っ込みや震災映画への構えが一緒に流されていくようだった。観終わって、私自身も救われたような気持ちになった。
「大丈夫、大丈夫」。
この映画にはそんな希望や救いが込められている。不思議と晴れやかな気分で劇場を後にすることができた、稀有な映画だと思う。

遺体に命を感じるということ

 

スピリチュアル的な観点では、西田敏行演じる主人公が、遺体に接するときにまるで生きている人に接するようにいちいち声をかけるところが特筆だ。死んでもしばらくは魂は体の側にいるので、声をかけられたり、体を綺麗にしてくれることを魂は喜ぶ。また、遺体のみならず、物や植物、動物にも声をかけると、それだけで彼らは喜ぶ。暖かい言葉は人間だけじゃなくてあらゆるものを元気にする。だから、言霊という言葉があって、それはハンパないパワーを持つのだ。主人公の遺体への接し方には、何度も古き良き日本人の姿を見る思いだった。

『遺体 ~明日への十日間~』
全国公開中 全国公開
(C)2013フジテレビジョン
監督・脚本/君塚良一 原作/石井光太 出演/西田敏行、佐藤浩市、筒井道隆、勝地涼、酒井若菜、柳葉敏郎、沢村一樹、志田未来

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