一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.8 この凶悪犯、命を賭けて守る価値はあるのか?倫理観を試されるエンターテインメント作『藁の楯』

10億円をかけられた男の命を守る

うまいタイトルだと思う。観ていくうちに、まさに「藁の楯」!と頷いてしまった。
と、同時に「日本全国民が敵になる」というアイデアにも感心したし、観終わって自分が警護する立場なら、大切な人を殺されたなら、一体どうしただろう? と自身の倫理観を問われる展開に、ただのエンターテインメントで終わらせない深みを感じた。

一人の凶悪犯が福岡から東京まで移送されることになる。しかし、その男の命には10億円という破格の値段がついていた。男を殺せばお礼として10億円。それは男に孫娘を殺された財閥の老人の復讐だった。
10億円を目当てに次々と男に接近しようとする敵に立ち向かうのは警視庁警護課SPと刑事たちたったの5人。果たして彼らは、無事男を東京まで移送できるのか!?

多勢対少人数というのは最近では『300スリー・ハンドレッド』とか『十三人の刺客』があるが、今作はその『十三人の刺客』の三池崇史監督作ときている。お手並みは慣れたものだ。とにかく10億円のためなら! とエゴ丸出しのまさに「刺客」が次々現れて、まるでインベーダーゲーム(古い?)。きりがないし、観ているこちらも気が抜けない。警察関係者まで襲ってくるし、一体どうなっちゃってんの? となんだか、今の日本を現したような展開にイラっとしながら、救いを求めてる自分に気づく。

ここで、10億円なんかに踊らされない信念の人が出てこないと! ともやもやするんだけど、安心してください。ちゃんといます。そして、彼は最後の最後までその意志を貫き、クライマックスでは「えー!!」と叫びそうな状況になるんだけど、カタルシスを与えくれます。
少々辛いラストだけどね……。

 

悪魔の存在を匂わせる凶悪犯の造型に不安……

さて、この映画、ラストカタルシスはあるものの、一抹の苦味が残る。それは凶悪犯のラストの一言なのだが、私はこういう凶悪犯の造型や、実際の兇悪犯を見るたびに感じることがある。それはスピリチュアル的に言うと「悪魔」の存在だ。この世の中に「悪魔」という存在は確かにいて、それらはある種の人間に憑依して様々な悪事を働いている。そういう邪悪なものに憑依されるのは、その人間に問題があるのだが、現代は悪魔が跋扈しやすい時代とも言える。
この映画の凶悪犯の造型はまさに悪魔で、邪悪そのもの。そういうキャラクターを映画でリアルに描くことにそこはかとない不安を感じる。また、こういう犯罪者にリアルさを感じること自体、不気味な時代でもあるのだとも思う。考えすぎだろうか?

観終わって、面白かった! んだけど、同時にう~ん……と考え込んでしまった。そういう意味では「思索」できる秀作であると思う。

 

『藁の楯』
2013年4月26日(金)~全国ロードショー

監督/三池崇史、脚本/林民夫、原作/木内一裕
出演/大沢たかお、松嶋菜々子、岸谷五朗、山﨑努、藤原竜也、伊武雅刀、永山絢斗
©木内一裕/講談社 ©2013映画「藁の楯」製作委員会
http://wwws.warnerbros.co.jp/waranotate/index 

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