ブータンしあわせ便り第20稿「と」~「土地」

ブータンと日本はよく似ている点があります。たとえば去年、ブータン国王様・王妃様がご来日されたとき、日本人とよく似た風貌にブータンに親近感が沸いた方も多い方と思います。
またお米が主食であったり、礼儀を重んじる価値観などブータンと日本には共通した点がいくつか挙げられます。

よく「ブータンと日本の違いはなんですか?」と質問を頂くことがありますが、ブータンと日本の違いは『次元』が異なるといっても決して過言ではありません。
たとえば、ブータンは教育費・医療費に加え、3つ目「無償」として、「土地」が挙げられます。家族構成、居住を希望する地区などを関係省庁に提出すると、ブータンでは政府より「土地」そのものが無償で提供されます。ですからどんなに貧困であっても、教育を受けること、病気やけがにかかる医療、そして家を建てる場所、土地に困ることはありません。(家屋は自分で建てなければいけません)
ですから日本とブータンの違いといっても、日本人のほとんどが常日頃、住宅ローンや、巨額の教育費、老後の医療費などの悩みといったものはブータンでは家が建てられる(これも村人みんなで建てたりします。またトタンや気を政府が無償で提供してくれることもあります)経済力があれば、皆無の悩みとなります。これは途上国という状態にあって、国民を救う大きな政策の一つであり、「ブータン王国の土地はブータン国民みんなのもの」というブータンの理念からきています。

また、「ブータンにないものは?」という質問をよくいただきますが、これはたくさんあるのですが、まずは、「トンネル」や「電車」といったものがブータンにはありません。トンネルがないので、急峻な山々をまさに、上り下り、隣の山までものすごい時間がかかります。だいたブータンでは10キロ車で行くのに1時間はかかるとみていた方がいいでしょう。これは「山は神々様のもの」という考え、「自然を破壊しない」という考えからきています。またそういうことで電車はありません。ガードレールもあまり整備されておらず、冬にブータンで山道を運転するのは非常に危険で、私は気候のいい季節でもたくさんの事故を目撃し、細い断崖の山道を車で走る際は、いつ転落してしまうのか、生きた心地がしなかったのを今でも覚えています。

またこれはよく言われることですが、ブータンには信号機がありません。唯一の信号機は首都にひとつありますが、それは「手旗信号」で人によりなされています。

こう考えると、「交通」に関するものがブータンでは整備されていない、あるいは、環境保護のため人間の時間を優先させるより、自然を優先させ、電車がないなら人間は歩けばいいんじゃない?といった感覚があります。村人たちは数日間も山を歩き、町に出てくることも普通です。

こういった面から、ブータン人と日本人は「時間の感覚」は全く違います。
ブータンのGNH(国民総幸福)の政策の中に特に重要な課題として挙げられているものは「時間」です。
いくら給料がよくても家族と過ごす時間が少ないと、それは「しあわせ」とは違う、毎日時間に追われているとそれも、「しあわせ」とは違う、休暇がないとそれは「しあわせ」とは違う・・・「時間がもたらすしあわせ」はブータンの政府関係者と話していても、必ず一番の議論になります。以前、ブータンは国家公務員の就業時間が朝8時から2時までということもありました。今は他国とのかかわりも増え、4時半から5時ぐらいまでに変更になりましたが、一日6時間、しかも2時まで!となるとものすごくたくさんの時間が家族とも、プライベートとしてもあったことになりますよね。

これからブータン人も忙しく時間に追われることになるのかな?……私には時間に追われるブータン人はまったく想像できません。この面はいつまでも穏やかで、大自然のように大きく、のんびりと……を30年後のブータンにも期待しています。

★バックナンバーはコチラ