約束の場所・セドナ 第2話「朝焼けのボイントンキャニオン」

朝日に照らされるカチーナウーマン


セドナに到着して、最初にパワースポットを巡るボルテックスツアーに参加しました。空がほんの少しだけ明るみを増した夜明け前、午前5時過ぎに出発する早朝のツアーだったにもかかわらず、私は自分でも驚くぐらい頭が冴えていました。

というのも私は典型的な夜型人間で、早起きが大の苦手。ここに来て最初に驚いたのが、日本では考えられないほど朝早く目が覚めることでした。しかも目覚まし時計が鳴る前に、まるで誰かに起こされるかのようにバチッと目が覚めてしまうのです。まるで体内時計がリセットされたような、不思議な感覚でした。


男性性を司るといわれるノール

ツアーで最初に向かったのが4大ボルテックスのひとつであるボイントンキャニオンです。セドナにはあらゆる所にパワースポットがありますが、その中でも特に強いエネルギーが感じられる場所を「4大ボルテックス」と呼んでいます。

20台ほどの車が停まれそうな駐車場には、朝早くからすでに数台停車しており、その人気ぶりが伺えます。駐車場からは幅2~3メートルほどのトレイルが整備されており、サラサラした砂地に軽く足を取られながら先へと進みました。しばらくするとガイドが「大地からのエネルギーを感じ取れる場所です」と一見何もない場所で立ち止まりました。妻や他のツアー客と同じように、私も半信半疑で両手を地面に向けてみると、まるで手の平に微量の電流が走ったように感じるではありませんか。まさか自分がそのようなエネルギーを感じ取れるとは思わなかったので驚きました。


聖地が朝を迎えます

緩やかな坂が続くトレイルを進んでいくと、自然が生み出したとは思えない独特な形をした岩が目の前に現れます。それは女性性を司っているといわれるカチーナウーマンで、ボイントンキャニオンの象徴ともいえる岩でした。その向かい側にはノールという男性性を司る岩があり、その岩と岩の間がトレイルの終着点でした。そこから見えるであろう絶景を想像して、期待に胸を膨らませながら駆け上がりました。

しかし、高台になっているその場所から渓谷を見下ろすと、そこに広がっていたのはエンチャントメント・リゾートという高級リゾートホテルの敷地でした。谷間を吹き抜ける風の音に耳を澄ませようとしても、止めどなく響き渡るゴミ収集車のエンジン音によって現実へと引き戻されます。これには少し興ざめしてしまいました。

ここは本来インディアンの聖地だったのですが、観光地として宿泊客の要望を満たすために土地が買収され、現在のようなホテルが建てられたそうです。聖地の現実をまざまざと見せつけられたような気がして心が痛みました。


サンライズツアーの熱気球が飛んでいます

しかし、カチーナウーマンを見上げる場所まで戻った時、まるで見計らったかのように太陽が姿を表し、カチーナウーマンとその一帯を照らし始めました。赤茶色の岩山が朝日を浴びて、眩いオレンジ色の輝きを放っています。その光景を見ていたら、傷ついていた自分の心が、優しいエネルギーに包まれて徐々に癒されていくような気がしました。観光地化されてしまっても、やはりここは聖地なのだと実感した瞬間でした。

朝日に染まる聖地の姿に名残惜しい気持ちを抱きつつ、ツアーの一行はボイントンキャニオンを後にして、次の目的へと向かいました。

~つづく~

★バックナンバーはこちら