驚異の呼吸ヒーリング トレーシー・ストーバーの「ブレス・アウエアネス」

長い歴史を誇るインドのヨガや気功における呼吸法。それを打ち破るかのような新しいタイプの呼吸ヒーリングが、70年代のアメリカでヒッピーの間から誕生しました。発祥のころから、激しい音楽に合わせて身体を動かしながら、ヨガ行者のすすめる鼻呼吸ではなく、口による腹式呼吸を、間をあけずに続けるという 方法をとっています。

時々身体を激しく動かしながら、口を開けた状態を維持する複式呼吸を行い、腹部に吸い込んだ息をしっかり肺の上部にまで 吸い上げて胸もふくらませる深呼吸を連続して一時間ほど続けると、身体が高酸素状態になり、細胞の隅々に酸素が行き渡り、肩や首の緊張がほぐれて、本来の赤ちゃんがするような自然な呼吸がを取り戻せるというもの。

総称してトランスフォーメーショナル・ブリーディング(変身のための呼吸法)と 呼ばれ、体内に滞ったしこりをほぐし、心身を調和に導く健康法として、現在、北米で注目されています。

ブレス・マンダラと名付け、独自の指圧法(固い部分のエネルギ−を、指で押しながら解き放していく方法)を交えながら、この呼吸法によるセッションを行っているのは、シアトル在住のトレーシー・ストーバーさん。

トレーシーのセッションは、受術者の普段の呼吸のクセを見つけるところから始まる。誰もが、それぞれの個性や生活スタイルのなかで、呼吸のクセができているのだそう。

「呼吸の仕方を見ると、その人の状態がよくわかります」

うながされて普段の呼吸をしてみると、いかに日常で、 呼吸のことを意識していなかったか、ないがしろにしていたかに気づくことになります。驚いたり、熱中したり、思い詰めたりしているときは、呼吸を とめてしまい、心配事があったり,緊張しているときは、知らぬ間に浅く早い呼吸をしています。つまりこの状態では、酸素は充分にとりいれられていないのです。

「呼吸は、潜在意識に通じるドアの入り口でもあるのです」

ト レーシーのセッションを何回かうけているうちに、特殊なトランス状態になり、自然に自分で呼吸をとめるという瞬間を体験した。特殊なという意味は、なにもわからなくなるトランス状態とは異なり、周りのすべての瞬間瞬間の音はむしろクリアにとらえられて、非常に平和な精神状態が保たれ、息をする必要を感じなくなるという体験。平和な感じというのは、「今この瞬間」の素晴しさにすっかり心をとらわれていて、他のことはなにも必要ないと思っている状態。

人は充足しきった瞬間は、おそらくこれに近い精神状態になっているのだと思えました。医学的な常識であれば、呼吸が無理なく2分間も止まっているという のは、異常な状態のはずなのに、苦しくもなんともなく、時がそこで素晴しく止まってしまっている。

スピリチュアルな本に、たびたび登場する一節、「今この瞬間に生きることこそ、もっとも心身の健康にとって役にたつことです」が、深い呼吸を続けただけで起きてしまった不思議。

その無呼吸状態のなかで、突然、自分が母親のお腹から産まれた瞬間がよみがえったのです。記憶ではなく、あきらかな感触として、あたたかい両足の腿のあいだからするりと外に出た……。苦しいので息を吸ってみたがうまくいかない……。

何度か試しているうちにコツがつかめました。自分が産まれて初めて した呼吸を再体験したことになります。セッションの間に、過去にトラウマになった出来事の瞬間や、過去生がよみがえる例がよくあるそう。過去に作られ、現在まで深いところで息をひそめて根雪のようになったしこりが、再体験により溶けていくのだという。

グループセッション(複数に対して行うセッ ション)で、10年間抗精神薬を飲み続けている鬱病の女性が大声をあげて号泣する場面に同席しました。薬により感情が抑えられていたこの女性は長いこと声をあげて泣いたことがなかったという。セッション後の晴れ晴れとした喜びに満ちた微笑みが忘れられません。

「呼吸はきちんと意識して正しい方法で行えば、あらゆる不調和を調和に導いてくれます」

この呼吸健康法は、さまざまの可能性を秘めています。ひと呼吸ごとに、自分に本来備わっている治癒力を取り戻しているという実感があり、これは従来の受術者の受け身のみのヒーリング法とは一線を画するような、革新的なセラピーであるといえるでしょう。