もう1人のマザーテレサ 細川佳代子さん「あなたを受け入れているという事、それが大事」第1回

元ファーストレディ(第79代内閣)だからボランティアに励むのではなく、細川佳代子という人間が人を愛する気持ちで溢れているから、自ずと人の笑顔に携わることを選ぶのだ。彼女のなかでは、きっと全ては人助けでも何でもなく、生きることそのものなのだろう。だからこそ、細川佳代子さんの言葉には、ボランティアとは何ら関係がない人でも。日々の生活で活かすことのできる知恵とエネルギーに満ちているのだ
Photo:Tomoko Hayano Text:Akemi Endo

知的発達障害のある人たちの自立と社会参加を日常的なスポーツ活動を通して応援する国際的なスポーツ組織「スペシャルオリンピックス」を日本国内に広めてきた細川佳代子さん。その出会いとなった自身の経験を「ともこちゃんは銀メダル」(ミネルヴァ書房)という絵本で紹介している。その出版パーティには、知的発達障害のある9人の青年たちが撮影クルーとして参加していた。母のような目で彼らを見つめる細川佳代子さん。彼女の目には知的発達障害というのはどのように映っていらっしゃるのだろうか? そして、全ての子どもたち、今後の世界のあり方をどう捉えていらっしゃるのだろうか?

編集部(以下編):知的発達障害者と身体障害者というのは明確にわかれるのですか?

細川佳代子(以下細):身体に障害のある人の場合は日本だと中途障害が多いですね。というのも、交通事故が多いから。それから病気の後遺症が残ってしまったり。目に見えなくても身体のなかの臓器の障害も身体障害になりますしね。ですから細かく分けるとキリがないんですが、いわゆる身体の一部、臓器も含めて、その一部に機能障害があるということです。もちろん、生まれつきの方もいらっしゃいます。知的発達障害の場合は普通生まれつきです。ただし、病気の後遺症だったり事故の後遺症で脳の一部に機能障害があるとか、傷ついたりして知的障害が残る方も中にはいらっしゃいますね。昨日のパーティに参加してくれた彼らのなかには、身体障害のある人はいません。背が低いのも全て個性。大きくなる子もいますが、一般的にダウン症の方で大きいという方はあまりいませんね。大体小柄。それは単に背が小さいだけで、身体的には障害はありません。だからみんなスポーツを楽しめるんです。ただ運動神経がどうかというと、それはまた別の問題。一般の方でも凄く運動神経の良い人と全然運動はダメな人がいるように、知的発達障害のある人にも身体に障害はないし運動はすごく好きで、運動神経が発達している方もいます。一方、スローペースで機敏には動けない方もいます。だからといって身体的な障害者ではありません。

:率直な質問ですが、パーティで一部のクルーの方々が壇場にあがってお話しをされる際に、一人の方が黙ってしまいましたよね。とてもハラハラしてしまって。頑張れと言っていいのかわからなかったのですが、原因は緊張していたからなのでしょうか?

:緊張しているとなかなか声が出ませんし、彼は人前で言葉が出ずらいことがあるのです。じゃ、しゃべれないのかというと、独り言はペラペラ話す。一緒に生活するとそういう場面に出会うのね。だから緊張の一種だと思います。『Believe』という彼らのドキュメンタリー映画を撮った監督も、独り言で話していてビックリしたそうです。だいたいはしゃべりませんけどね。元々寡黙。だからと言って先取りしてこちらからいろいろ言っちゃうより、彼の場合は待っていた方がいいの。それはね、個性で人によってみんな違うから。ずっと付き合っていくうちにみんな一人ひとりの個性がわかっていくんです。とってもご挨拶が上手なダウン症の子もいるし、彼のように極めて寡黙で、わかっているけど話さない子もいます。しかし全部無視してこちらが先に話してしまっては彼は面白くないですね。じっと待っていれば、その時の気分でホロっと言ってくれることもあります。

:身体障害者の方の場合は車椅子を押すなど、私たちができることもわかりやすいのですが、今のお話を聞くと、ますます知的発達障害にある人にどう接したらいいのかがわからなくなりました。

:基本はね、なんていうのかな。まず優しい眼差し、そして笑顔。あなたを受け入れている、ということを身体と顔で表現する。わからないとみんな緊張して怖い顔になったり「なんて挨拶しよう」と困ると、その緊張が全部伝わってしまう。それはあまりよくないのよ。一番大事なのは笑顔で、優しい目で見てあげること。そして声をかけて返事が返ってくれば「あ、言葉がわかる子だな」と思うし、帰ってこないときは「言葉が苦手なんだな」というのが自然とわかります。重い自閉症の人は話しかけても目を合わさないでそっぽを向いちゃうので、「ああ、この子は自閉症なんだな」と、すぐわかります。でも、いやでそっぽを向くのではなく、そういう性分なんですね。人と目を合わせるのが苦手。そっぽを向いてもちゃんと気にしているから、ちゃんと聞いているわけです(笑)。だからあきらめずに話し続けるんです。どっかに行ってしまっても、「話せなかった」とこちらがショックを受ける必要はないです。それが彼の個性なんだから落ち込む必要もない。ということは、一回でわかるわけがないということね。ですからスペシャルオリンピックスのように毎週彼らと一緒に定期的にスポーツをする。スポーツは言葉でなく、お互いの身体を動かすでしょ。コミュニケーションが苦手な彼らでもスポーツを通せば身体を動かしてマネをする。彼らと触れ合って、彼らのよき理解者になるには、スポーツというのは最高の手段になると思うの。だからスポーツを大切にしているわけ。年に1回、「さぁ、やりましょう」といったって絶対に無理。やっぱり定期的に繰り返すことが大事。一緒にトレーニングすることによって個性が段々判ってくる。最初は物凄い苦労をして、どうしたらこの子に通じるだろうか、とコーチたちもみんな悩むのね。だけどもある瞬間、ニコっと目を合わせて笑う日が来たり、笑わなくてもその人なりの親愛のメッセージを発信してくれる。そうすると嬉しくなっちゃって辞められなくなるの。やっと心を開いて受け入れてくれたなって。この日が来てくれた、とわかるわけね。それでその子の個性も段々わかってくるから面白いのよ。その子の苦手なことや得意なこともわかる。何度もつきあっていくと、ますます面白くなる。だからしばらくは半年、1年はどうしたら笑顔になるかとか、どうしたらこちらの顔、目を見て話してもらえるかっていうのが一つの戦いなわけよ(笑)。

〜続く〜

 

細川佳代子●ほそかわかよこ

認定NPO法人スペシャルオリンピックス日本名誉会長。神奈川県出身。1994年「スペシャルオリンピックス日本」を設立。2005年長野で開催された「スペシャルオリンピックス冬季世界大会」で会長を務める。活動の理念を広げるために日本各地で啓蒙活動を行っている。ユニバーサルスポーツとしてフロアホッケーを普及するために日本フロアホッケー連盟を設立。会長も勤め、障害、性別、年齢等を超え、共に生きる喜びを感じる社会の実現を目指している。また、途上国の子どもたちにワクチンをおくる認定NPO法人「世界の子どもにワクチンを」日本委員会理事長、知的発達障害のある青年たちを追ったドキュメンタリー映画『able』『Host Town』『Believe』などを制作した「ableの会」代表、障がい者理解の「教育」と「就労支援」を二つの柱にした活動「勇気の翼インクルージョン2015」の代表も務めている。

認定NPO法人スペシャルオリンピックス日本 ホームページ
http://www.son.or.jp/
『ともこちゃんは銀メダル』1,800円(ミネルヴァ書房)「少女の奇跡のようなできごとが、みんなの心に種をまきました」と有森裕子さんも絶賛するスペシャルオリンピックのことがわかる心温まる絵本。絶賛発売中!

 

★バック記事を見る→映画レビュー