法王ですら悩む人生の意味 『ローマ法王の休日』

ローマ法王死去――。
この一大事を受けヴァチカンで開催される法王選挙(コンクラーヴェ)。聖ペドロ広場には、新法王誕生を祝福しようと民衆が集まり、世紀の瞬間を心待ちにしている。
そんななか、投票会場に集められた各国の枢機卿たちは全員が必死に祈っていた。「神様、一生のお願いです。どうか私が選ばれませんように――」。祈り空しく新法王に選ばれてしまったのは、ダークフォースのメルヴィル。

彼は大観衆を前に演説を行わなければならないプレッシャーに耐えきれずローマの街に逃げ出してしまう……。事務局が必死になってメルヴィルを探すなか、彼は街の人々との触れ合いを通じ、人生を、人の信仰心や真心を、そして法王の存在意義を見つめ直していく。
演説開始までのタイムリミットまであとわずか。最後に彼が選んだ結論は……?

フィクションではあるが、それでも全世界に11億人以上いるとされるカトリック教徒の精神的指導者となる人物が、こうも迷い、揺れ動くものかと驚いた。
市井の人間とは一線を画し、揺るがない精神で人々を導くべき法王。しかしメルヴィルが法衣を脱ぎ捨て、洋服で街を歩けば、その姿はあまりにも平凡な男性。誰が、彼をローマ法王だと気づくだろうか。そこにあるのは、一人の人間としてのメルヴィルの姿。

精神科医から職業を聞かれ、メルヴィルはとっさに「俳優」と答える。本当は俳優になりたかったのだ。
そして、その無意識こそ、彼の本音。
今もなお、俳優になれなかった後悔が、実はまだ彼のなかでくすぶり続けている。劇中登場するチューホフの「カモメ」の演劇に登場する、人生を思い通りにできなかった登場人物たちの苦悩は、まさしくメルヴィルの本音を代弁しているかのよう。

彼は最後にどのような生き方を選んだのか。
鮮やかな選択に心が躍る。

 

『ローマ法王の休日』
監督:ナンニ・モレッティ
出演:ミシェル・ピッコリ、ナンニ・モレッティ、レナート・スカルパ
公開:2012年7月21日(土)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
配給/GAGA
©Sacher Film.Fandago.Le Pacte.France 3 Cinema 2011
http://romahouou.gaga.ne.jp/