セドナの奇跡

最近、有名芸能人カップルが隠密旅行に訪れたとして、「セドナ」が話題になっている。
スピ系に関心のある人なら、誰でも知っている世界屈指のパワースポット。昨今、沖縄の神様の島やルルドなど、世界各国のパワースポットに注目が集まっている中、いよいよセドナも“解禁”になったということなのだろうか。ネイティブアメリカン伝承の地で、地球のエネルギーが渦巻きのように湧き出している“ヴォルテックス”があると言われている場所。その場所に立ってみると、パワーアップするだけでなく、さまざまな不思議に遭遇することも少なくないという。

ずっと行きたかったその場所に、私がたどり着けたのは最近のことである。アメリカで、予定より少しだけ早く仕事が終わった勢いで、フェニックスまでひとっ飛び。レンタカーを借り、まっすぐなハイウェイをひた走ること2時間半。真っ赤なレッドロックの光景が、突然視界の中に飛び込んできた。

聖地と呼ばれるような場所を旅する時、私はいつも、あまり詳細な情報を入れずに出かけることにしている。伝説を多く知れば知るほど、その場所を巡るのに忙しくなり、感じたかったものが感じられなくなってしまうから。けれど、たとえその場所が聖地だと知らなかったとしても、その場所が特別であることはすぐにわかったに違いない。連綿と続く真っ赤な岩の景色は、静寂に包まれていた。そして気がつくと、私は泣いていたのだ。

セドナは、そのあたり全体がパワースポットになっていわれている。けれど、その中でも強力にパワーのわき出ている４大ヴォルテックスというのがあって、そこを回るのが聖地セドナを目指してきた人たちの定番コースになっている。そして巡っている人たちの多くが気にしていたのが“どこが、そのポイントなのか”ということ。全体がパワースポットなのだから、どこがそのポイントなのかは大きな問題ではない、という前提がありつつも、“あなた、ヴォルテックスがどこかわかった？　あの、小石が積み上げてあるポイントよ”などと通りすがりの旅行者にささやかれてみると、やはり探しに行ってしまうのだ。

点在するヴォルテックスを巡って車を運転していた時のこと。周囲には人の気配すらない荒野の道を、とぼとぼと歩いている３人の老婦人がいた。イタリアから来たのだというその三人は、私の車を見つけると、道をふさいで“乗せて～！！”と言う。聞けば、その老婦人達は三姉妹で、一番末の妹が、足腰の立たなくなる前に、一度、自分が人生で最も感動した場所だったセドナを、姉達にもぜひ見せたいと。はるばるやってきたのだという。ところが、十数年もたったセドナに迷い、ほんのお散歩のつもりが、炎天下の道で遭難しそうになっていたという。イタリア人の妹は言った。“あなた、カチーナ・ウーマンという最高のパワースポットの場所を知ってる？　知らないの？　乗せてくれたら、私が教えてあげるわ。グッド・ディールじゃない？”

そもそも。道に迷っていた人を道案内に立てた私が悪かったわけだが。４大ヴォルテックスのひとつ、ボイントンキャニオンまではカーナビが連れてってくれた。そこからカチーナ・ウーマンと呼ばれるパワーポイントまでのトレイルは、末妹の案内に従った。そして末妹は、見事にトレイルの分かれ道を間違えて、入口から15分程度の場所にあったカチーナ・ウーマンを探していたはずの私達は、２時間近くをかけて、ネイティブアメリカンの遺跡にたどり着いていた。

ビーサンの足に、２時間のトレッキングはきつかったけど。でも、どこまでも陽気なイタリア人のおばあさま方のおかげで、たぶん、自分一人では決して行かなかったであろう、聖なる洞窟を見せてもらった。

さて。迷いに迷ったカチーナ・ウーマンは、滞在中、私の一番のお気に入りスポットになっていたのだが。最終日の夕刻のこと。これが見納めだと、ひとりでその場所に上ってみると、そこには奇跡のような美しい雲が広がっていた。瞑想をしていた人、オレンジをくれた日本の女の子、15人ぐらいの現地ガイドのツアーなどなど、ついた時には賑やかだった。けれど、雲に見とれていたそのすきに、気がつけば私一人。あれ、と思った瞬間――。幻だったのかも知れない。そんな気がしただけなのかも……。けれど、その瞬間、私は、はるか上方にあるはずの、雲の中に入ってしまっていたのだ。

あれが何だったのかは、未だによくわからない。けれど、ヴォルテックスのパワーは強力だったと思う。裸足になり、手のひらを地面にあててみただけで、ジンジンと地球が伝わってくる。

聖地などに出かけているようじゃ、まだまだだという人がいる。聖地からパワーをもらおうだなんて、その気持ちが違っているという人も。けれど、動機など、結局は些細なことなのではないかと思う。何でもいい。何かが変わる“きっかけ”になれば。それだけで聖地の役割は十分なのではないだろうか。

少なくとも、あのセドナにいた時間は、とてもとても幸せだった。（左）ホーリークロスチャペル　（中）カテドラルロック　（右）ボイントンキャニオンで見た夕焼け

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