大峯千日回峰行満行者 柳澤眞悟師「行じて見えた、現代を生きる智恵」PART.5

本誌Trinity42号

Trinity42号にご登場いただいた柳澤眞悟師は、吉野・金峯山寺の歴史のなかで、大峯千日回峰行を戦後初めて満行された大阿闍梨様です。本誌ではご紹介しきれなかったインタビューをお届けします。

※大峯千日回峰行とは…奈良県・吉野山の金峯山寺蔵王堂から大峯山上ヶ岳(標高1719メートル)にある山上蔵王堂までの山道を、往復48キロ、山上蔵王堂の戸開期間中143日の間、1日も休まず歩き続け、8年かけて満行する行のこと。

『たぶん前世はあると思います』

― 千日回峰行の前と後では、護摩焚きの力は違いますか?

柳澤師:「全然違います。千日回峰行の後もさまざまな行を行っておりますから。その後の行の方が役に立っています。たとえば密教の印を結ぶとか声明ですね。音楽のようなお経ですが、お唱えしているなかである種の精気レベルの波動を感じるんですよね。平成元年にそれを感じ始めてから24年ほど過ぎていますが、自分自身の修行の基本になっています。なぜなのかは分かりませんけれど、仏様がそういうものを与えてくださっているのではないかと思います」

―今も、山を歩かれているのでしょうか。

柳澤師:「歩きますね。山を歩くと呼吸が荒くなります。特に登り坂などは、息を吸う時に大気の空気を吸いますが、プラーナというものも吸いますので、当然肉体も活性化します。今は時々しか山に行きませんが、ほとんど密教の供養法、声明の詠唱、護摩祈祷など、日々の日課にしております」

― それをやらないでいると、精神的にも一日を過ごせないのでしょうか。

「身体の精気レベルの波動のコントロールですよね。ご祈祷は現世利益をもたらすものですが、現世利益のものだけではなく、その奥にはかり知れないものがある。なにしろ続けないといけない。やめてしまえば段々とその波動も消えてなくなってくる。するとただ形だけ拝んでも駄目なのです」

― 日々続けていると、力が増長するのを感じられますか?

柳澤師:「そうですね。最終的には波動が身体を完全にコントロールしたら、ある種の覚醒の状態になることがあるのではないかと思います。いつになるかというのは分かりませんが、そういう実感があります。お釈迦様の悟りというのは、もっともっと深遠で、私はまだまだその入り口にも至らないでしょうが」

― そのように感じられるのはここ最近ですか?

「波動を意識し始めたのが平成元年です。大峯山の「笙の窟(しょうのいわや)」に百日間こもって認識できたわけです。窟のなかは、電気も何も、現代文明のものは一切ない。飲み水は、岩から浸み出しているのがありますが、ご飯はそば粉を練って食べる。20キロくらいは痩せますよね。精神的にも大変で、やめたいとは思いませんでしたが、1日が1週間くらいに思えるのです。そこに100日間こもって密教の諸尊供養法と読経を毎日9時間ほど拝みます。そのなかで波動というのを感じました」

― 生命はどこから来て、どこへ行くとお考えでしょうか。

柳澤師:「輪廻転生ですね。六道輪廻とかいろいろありますけど。たぶん前世はあると思います。いつの時代から人間になったか分からないし、人間になる前は動物だったのかも分からない。どういう風に進化して今の姿になったのか、これから先どうなっていくのか分からないですが、生命は壮大な生命の営みのサイクルのほんの一コマ。だから仏教では解脱(げだつ)を言うんですよ。輪廻のサイクルから外れることが解脱。お釈迦様は悟りを開いたから解脱した。だからあまり動物的に欲望だけに生きているような人はよくありませんよという教えですよね。そういうところから段々と離れなさいよという。最終的には皆、解脱に向かって生きているんですよ。今世でできなくても、修行の場を与えられて生きているようですね」

(了)

PART.1
PART.2
PART.3
PART.4


■プロフィール

柳澤眞悟(やなぎさわしんご)
昭和23年長野県茅野市にて生まれる。25歳で吉野山金峯山寺に入寺。35歳で「大峯千日回峰行」を戦後初めて満行。大峯千日回峰とは、奈良県・吉野山の金峯山寺蔵王堂から大峯山上ヶ岳(標高1719メートル)にある山上蔵王堂までの山道を、往復48キロ、山上蔵王堂の戸開期間中143日を1日も休まず歩き続け、8年かけて満行する行のこと。昭和59年には、断食・断水・不眠・不臥を9日間続ける「堂入」(四無の行ともいわれる)を満行。平成元年、笙の窟百日籠山行を満行。その後、寺内において2度の百日籠山行を満行。平成22年に権大僧正。現在は金峯山寺副住職、金峯山修験本宗「成就院」住職を務める。

■information
世界遺産 金峯山寺 国宝仁王門 大修理勧進
秘仏本尊特別ご開帳
蔵王堂ご本尊、日本最大の秘仏金剛蔵王大権現3体(重要文化財)を拝観できます。
2012年3月31日(土)~6月7日(木)まで
http://www.kinpusen.or.jp/event/2012-gokaityou.pdf

金峯山寺 http://www.kinpusen.or.jp/