カリフォルニア イヤシロチvol.1

かがやく海と緑の大地、カリフォルニア。人々はその豊かな自然に魅了され、そこに自分たちの思いを重ねて、さまざまな“イヤシロチ”をつくってきました。そんな癒しスポットをLA在住のライターがご案内。第1回はパシフィックパリセーズの丘に立つ、ちょっと不思議な瞑想スポットを訪ねました

瞑想にふさわしい湖畔の寺院「レイク・シュライン」

夢のお告げでつくられた ヨガナンダ理想の寺院

ロサンゼルス郊外のパシフィックパリセーズは、太平洋に面した小高い丘の高級住宅地。「レイク・シュライン」はその一角にあります。インド出身の聖者、パラマハンサ・ヨガナンダにより1920年創立の宗教団体「ザ・セルフリアライゼーション・フェローシップ」の寺院として1950年に開かれた場所。ヨガナンダはアメリカでヨガ瞑想を主唱した第一人者であり、この施設は「すべての人にヨガの教えと瞑想を広めたい」と、どの宗教の信者にも宗教を持たない人にも門戸を開けています。平日には周辺地域の住民が、休日にはサンタモニカやマリブのビーチに遊びに来た観光客が訪れ、思い思いのスポットに腰を下ろし、しばしの静寂を楽しんでいます。湖を中心とした10エーカーの庭園にはアーチやハウスボート、オランダの風車が点在。一見何の脈略もない建物ですが、その背景にはちょっと不思議な物語があるのです。ハリウッドからもそう遠くない風光明媚なこの土地には、映画作りが盛んになった1920年代、無声映画のスタジオがありました。その後、開発業者に買収されて整地。ほどなく工事は中止となりますが、そのときに残された大きな窪地にどんどん湧き水がたまり、“湖”になってしまいました。そして、40年代にフォックススタジオの助監督が湖畔にハウスボートを置いて自らの住処とし、風車も建設。40年代末に、今度はそれを石油会社が買い取り、リゾート開発を計画します。ところが、その社長は3晩続けてある夢を見るのです。それは、「すべての宗教のための教会をつくる」という夢。どこに問い合わせたら良いものかと、電話帳で「すべての宗教」という項目を調べたところ、唯一掲載されていたこの団体の名を見つけます。万人に向けたオープンエアーの寺院をつくりたいと、かねてから考えていたヨガナンダはここを理想の地とし、寺院をつくったといいます。いかにもLAらしいエピソードですが、あるがままの建物を使うなんて、ずいぶん許容力と柔軟性のある師ですよね。

 

瞑想とは心を澄ませ 内なる自分を見つけること

そんななか、この寺院で最も象徴的なのがヨガナンダのデザインした「ゴールデンロータス・アーチウェイ」。蓮花のシンボルを頂にした白いアーチは、「壁のない寺」と言われ、国や宗教、人々の心の間に壁があってはならないことを表しています。このアーチの奥には、マハトマ・ガンジーの遺灰を納めた石棺が奉られています。鯉や白鳥が優雅に泳ぐ湖の畔には、世界中の樹木が伸び伸びと育っています。地元のボランティアの人たちにより、よく手入れされた色とりどりの花々も訪れる人の心をほぐしてくれます。白いオランダ風車は瞑想ルームとして使われており、開園中ならいつでも入館可能。新館では金曜の夜にインストラクションつきの瞑想クラスがあり、瞑想前にはみんなでラジオ体操のような体操も行います。身体のバランスを取り、強靭にし、リラックスさせるための体操です。この寺院に従事する僧侶の1人、ブラザー・プリアナンダは語ります。「どんな大きな困難も神の計らいの一部です。なぜそれが与えられたのか、すぐに理解できないときもあるでしょう。神の計画はそれほど壮大で複雑なのです。心の平穏を取り戻すのに時間はかかるかもしれませんが、神の意識、宇宙意識に少しでも近づくよう瞑想しましょう」。瞑想により心を澄ませば、思考や感情、感覚がバランスを取り戻し、エネルギーが蘇る。そして、より深い平和に心は向かい、自分自身と、また神との調和を取ることができるといいます。我々1人ひとりの魂は、すべての生命に息吹を与える宇宙意識の一部。その魂、つまり真の自分自身を実現することが我々の使命、セルフ・リアライゼーションというわけです。朝のうちは海から霧がたちこめ、湖面は落ち着いたエメラルド色でしたが、カリフォルニアらしい日差しが出てくると、空と同じ真っ青に変わりました。さあ戻りましょう、日常に。この湖畔で見つけた“自分自身”をしっかり連れて帰り、共に生きようと思いました。

 

The Self-Realization Fellowship ― Lake Shrine17190 W. Sunset Blvd., Pacific Palisades 
☎ 310-454-4114

http://www.lakeshrine.org/

 

ハウスボートは1940年代にレイク・ミートから運んできたもの。16世紀オランダの風車を摸した建物は瞑想のルームとなっている

 

蓮花を頂にした白いアーチ「壁のない寺」は国や宗教、人々の間には隔たりがないことを象徴

 

非暴力による平和を訴えたガンジーの遺灰が奉納されているのは、インド国外ではここだけ

 

プラザー・ブリアナンダはベルリンに生まれ。真実を求めてインドやアメリカを旅し、ここに行き着いたという

 

美しい花々は自然の芸術品。丹精こめて手入れされた草花は訪れる人に微笑みかけてくれる

 

入口近くの「コート・オブ・レリジョン」には世界五大宗教のシンボルが並んでいる

 

キリスト、クリシュナ、仏陀、アッシジの聖フランシスコ……。海も流れる庭園には聖者たちの姿も