大峯千日回峰行満行者 柳澤眞悟師「行じて見えた、現代を生きる智恵」PART.3

Trinity42号にご登場いただいた柳澤眞悟師は、吉野・金峯山寺の歴史のなかで、大峯千日回峰行を戦後初めて満行された大阿闍梨様です。本誌ではご紹介しきれなかったインタビューをお届けします。

※大峯千日回峰行とは…奈良県・吉野山の金峯山寺蔵王堂から大峯山上ヶ岳(標高1719メートル)にある山上蔵王堂までの山道を、往復48キロ、山上蔵王堂の戸開期間中143日の間、1日も休まず歩き続け、8年かけて満行する行のこと。

『人間は本当に才能があるんですよ。
人間が持っている能力を最大限に活かしていたんでしょうね』

― 自然は人間に対して脅威にもなります。私たち人間は自然に対してどう感じたら良いのでしょうか。

柳澤師:「回峰行でも、台風とか雷とか大雨は怖いですよね。遭いたくなくても襲ってくる。襲ってきた時にどうするかということです。どうなってもいいとは思わないし、どうやって助かるかを考えるんです。熊が襲ってくることはなかったですけれど、雷、台風、大風、大雨、いろんなことがありました。雷も凄いのがくると危ないので、神社の軒下に一時座っているとかね。おさまったらまた歩いて。山を突っ切れば本当に雷に打たれてしまいますので、そんなことをすれば一巻の終わり。人間は本能として、身を守って助かりたいという性質を持っているんですよ」
― 自然がキバをむいてきた時に、自然をコントロールしようというのは間違いでしょうか。

柳澤師:「ある程度はいいと思うのですけれど、自分の欲望を満たしたいがためにそういうことをするのはいけない。たとえば山にトンネルを掘って、今までうんと迂回して行っていた所が短時間で行けるように、トンネルを掘るのが悪くない場合もあるわけです。ところが本当につまらない開発をして、お金ばかり使って、何のためにもならないようなことは結構ありますよね。人間は本当に才能があるんですよ。災難を避ける能力もあるし、いろいろな能力があるんですけれども、その力を使いきれないんでしょうね」

― 人間が力を使いきれてないのは感性が錆びついているからでしょうか。

柳澤師:「古代の人間は“神”というものを認識したようですけど、今はそういう人は少ないです。古代の人は生活環境のなかで情報量も少なかったし、人間が持っている能力を最大限に活かしていたんでしょうね」

― 災害が起こったときに天罰と思う人もいるようですが、どのようにお考えでしょうか。

柳澤師:「過去にも大地震は来ましたし、今後も来るでしょう。けれどもそれが罰かといったら、罰ともいえないんですよね。東北の災害も犠牲になった方は、本当にお気の毒だと思います。人それぞれ、自身の立場において、復興支援を考えていく必要があると思います。たとえば宗教者である私でしたら、天変地異消災鎮静のご祈祷を行い、それに併せて災害の復興や犠牲者の鎮魂をお祈りします。私自身も毎朝4時に起床して、本尊蔵王権現宝前で、そのご祈祷をしております」

PART.4へ続く

PART.1
PART.2 

■プロフィール

柳澤眞悟(やなぎさわしんご)
昭和23年長野県茅野市にて生まれる。25歳で吉野山金峯山寺に入寺。35歳で「大峯千日回峰行」を戦後初めて満行。大峯千日回峰とは、奈良県・吉野山の金峯山寺蔵王堂から大峯山上ヶ岳(標高1719メートル)にある山上蔵王堂までの山道を、往復48キロ、山上蔵王堂の戸開期間中143日を1日も休まず歩き続け、8年かけて満行する行のこと。昭和59年には、断食・断水・不眠・不臥を9日間続ける「堂入」(四無の行ともいわれる)を満行。平成元年、笙の窟百日籠山行を満行。その後、寺内において2度の百日籠山行を満行。平成22年に権大僧正。現在は金峯山寺副住職、金峯山修験本宗「成就院」住職を務める。

■information
世界遺産 金峯山寺 国宝仁王門 大修理勧進
秘仏本尊特別ご開帳
蔵王堂ご本尊、日本最大の秘仏金剛蔵王大権現3体(重要文化財)を拝観できます。
2012年3月31日(土)~6月7日(木)まで
http://www.kinpusen.or.jp/event/2012-gokaityou.pdf

金峯山寺 http://www.kinpusen.or.jp/